株式会社光本美容商事社

美容室を蝕むカスタマーハラスメントの現状と対策-巧妙化する要求から従業員を守るために-

「今日も一日、お客様を笑顔にしたい。丁寧にカウンセリングをして、最高のスタイルを提供して、喜んで帰っていただく。それが私たちのやりがいだから。」

開店前の静かな店内で、ハサミの手入れをしながらそう願う美容師は少なくありません。
しかし、現実は時に、その純粋な想いを打ち砕くほど厳しいものです。

「〇〇さん、この前のパーマ、全然かかってないじゃない!無料でやり直してよ!当然でしょ!」
「あんたのせいで、せっかくの休みが台無しよ!慰謝料払って!」

お客様からの心ない言葉が、まるで鋭い刃物のように胸に突き刺さる。
笑顔でいなければならないけれど、心は悲鳴を上げている。
「どうしてこんな理不尽なことを言われなければならないんだろう…」

近年、美容室における顧客からの迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻化しています。
かつての理不尽なクレームに留まらず、過度な割引要求、長時間にわたる拘束、施術への不当な批判、SNSでの誹謗中傷など、その手口は巧妙化し、美容師をはじめとする従業員の心身を深く傷つけています。

本稿では、美容室におけるカスハラの現状を分析し、その背景にある要因を探るとともに、具体的な対策について考察します。


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美容室におけるカスタマーハラスメントの実態:巧妙化する要求と心理的影響 

美容室で発生するカスハラの事例は多岐にわたります。
例えば、「パーマがかかっていない」というクレームに対し、数時間にわたる無料での再施術を要求するケースや、「カラーの色が気に入らない」として、大幅な割引や返金を強要するケースは後を絶ちません。
中には、従業員個人をSNSで特定し、誹謗中傷を繰り返す悪質な事例も報告されています。

これらの行為は、従業員に大きな心理的負担を与えます。
長時間にわたる対応による疲労、不当な要求に応えられないことによる罪悪感、SNSでの攻撃による精神的な苦痛は、従業員のモチベーション低下や離職に繋がりかねません。

美容師という専門職への誇りを持ち、お客様を美しくしたいと願う従業員にとって、心ない言葉や行動は深く心をえぐるのです。
従来のクレームは、サービスや技術に対する不満が主な原因でしたが、近年のカスハラは、顧客の優位性を笠に着た一方的な要求や、従業員の人格を否定するような言動が目立つようになっています。

なぜカスハラは起こるのか?背景にある顧客心理と業界の構造

カスハラの背景には、顧客側の心理と美容業界の構造的な問題が複雑に絡み合っています。
SNSやインターネットの普及により、顧客は容易に情報を入手できるようになりましたが、その情報が必ずしも正確であるとは限りません。
「〇〇円で施術してもらえるはずだ」「芸能人のような仕上がりになるのが当然だ」といった過度な期待や誤った認識が、不当な要求に繋がるケースがあります。

また、一部の顧客には、サービスを受ける側が優位であるという誤った認識や、自身の不満を一方的にぶつけることで優位に立ちたいという心理が働いている可能性も否定できません。

一方、美容業界の構造にも課題があります。
「お客様は神様」という言葉に代表されるような、過剰なサービス至上主義は、顧客の不当な要求を助長する土壌となりかねません。
また、クレーム対応に関する明確なマニュアルや従業員への教育が不足している場合、現場の判断に委ねられ、結果的に従業員が不利益を被ることもあります。
低価格競争が激化する中で、顧客満足度を過度に重視するあまり、毅然とした対応が取れないという側面も考えられます。


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美容室を守るための具体的対策:未然防止から事後対応まで 

美容室がカスハラから従業員を守るためには、未然防止と発生後の適切な対応の両面から対策を講じる必要があります。

未然防止策として重要なのは、明確なポリシーを策定し、顧客に周知することです。
例えば、「過度な割引要求には応じかねます」「施術後の手直しは〇日以内とさせていただきます」「SNSでの誹謗中傷は法的措置を検討します」といった具体的なルールを明示することで、顧客の不当な要求を牽制する効果が期待できます。

予約時やカウンセリング時、店舗内への掲示などを通じて、顧客に理解を求めることが重要です。
また、従業員への研修も不可欠です。コミュニケーションスキル向上はもちろんのこと、カスハラに該当する言動の具体的な事例や、毅然とした対応方法、記録の取り方などを学ぶ機会を設けるべきでしょう。

カスハラが発生してしまった場合の対応も重要です。
まず、従業員一人で抱え込まず、複数で対応することを原則とします。
管理職や責任者が介入し、状況を把握し、適切な指示を出す必要があります。
顧客に対しては、不当な要求には応じられないことを明確に伝え、場合によっては施術の中断や退店を求めることも検討すべきです。
やり取りの内容は詳細に記録し、証拠として保全することが重要です。
悪質なケースでは、弁護士などの専門家に相談し、法的措置を検討することも視野に入れるべきでしょう。

とは言え、いきなり弁護士への相談や法的措置となると、心理的なハードルも費用面での負担も大きいと感じる方は多いと思います。
より気軽に相談できる窓口としては、以下のようなものが考えられます。

●業界団体や組合の相談窓口
美容業界には、様々な団体や組合が存在します。これらの団体によっては、会員向けに相談窓口を設けている場合があります。
業界特有の事情を理解した上でアドバイスを受けられる可能性があり、比較的気軽に相談しやすいでしょう。

●労働組合や労働相談窓口
個別の労働組合に加入していなくても、地域によっては労働に関する無料相談窓口が開設されている場合があります。カスハラの内容によっては、労働問題として相談できる可能性があり、法的なアドバイスを受けられることもあります。都道府県や市区町村の労働相談窓口や、労働基準監督署などに問い合わせてみるのも良いでしょう。

●消費者センター
悪質な顧客の言動が、強引な契約や不当な要求に繋がるようなケースでは、消費者センターに相談することも有効です。
消費者側の視点からのアドバイスや、場合によっては相手方への注意喚起などを行ってくれる可能性があります。

●地域の無料法律相談
弁護士への相談に抵抗がある場合でも、自治体や弁護士会などが実施している無料の法律相談を利用してみるのも一つの手段です。時間は限られていることが多いですが、 初歩的なアドバイスを受けることができます。

これらの窓口は、弁護士への相談よりも心理的なハードルが低く、無料で相談できる場合もあります。まずはこれらの窓口に相談し、状況を整理したり、今後の対応についてアドバイスをもらったりするのも有効な手段と言えるでしょう。その上で、必要に応じて弁護士への相談を検討するという流れが良いかもしれません。

そして、何よりも重要なのは、従業員のメンタルヘルスケアです。
カスハラは、従業員の心に深い傷を残す可能性があります。美容室経営者は、従業員のメンタルヘルスケアを経営の重要な柱として捉え、積極的に取り組む必要があります。
また、店全体でカスハラを許さないという意識を共有し、従業員が安心して働ける環境づくりを目指すべきです。

三重県内で専門機関に相談するには

カスタマーハラスメントに関する相談

三重県労働相談室 (059-213-8290 / 059-224-3110)
労働問題として相談できます。弁護士による無料相談(予約制)も利用可能です。

三重労働局 総合労働相談コーナー (059-226-2110)
労働に関する様々な相談に対応しています。

三重県消費生活センター (059-228-2212)
悪質な要求が消費者問題に該当する場合は相談できます。

法テラス三重 (0570-078344)
経済的に余裕がない場合は、無料法律相談を利用できます。

三重弁護士会 (津: 059-222-5957 / 四日市: 059-352-1756)
有料相談となりますが、弁護士に直接相談できます。悪質なケースでは法的措置も検討します。

メンタルヘルスケアに関する相談

三重県精神保健福祉センター (059-223-5285)
精神保健に関する専門的な相談や情報提供を受けられます。

各地域の保健所・保健センター
地域の精神保健に関する相談窓口として利用できます。

いのちの電話 (059-228-4343)
深刻な悩みを抱える従業員が、誰かに話を聞いてほしい時に利用できる電話相談窓口です。

よりそいホットライン (0120-279-338)
様々な悩みに寄り添い、電話やSNSで相談を受け付けています。

三重産業保健総合支援センター (059-225-3800)
職場のメンタルヘルスに関する相談や情報提供、研修などを事業者向けに行っています。

民間のカウンセリングルームや精神科・心療内科
必要に応じて、専門的なカウンセリングや医療的なサポートを検討します。


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サロン様へ

カスハラは、美容室にとっても決して他人事ではありません。
未然防止策を講じるとともに、発生してしまった場合には適切な対応を取り、何よりも従業員の心のケアを大切にすることが、持続可能な美容室経営に繋がるのではないでしょうか。
地域のリソースを積極的に活用しながら、従業員が安心して働ける環境づくりを目指していくことが求められます。

 美容室の経営に関するご相談はこちらから
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